あらすじ
※ネタバレ注意
主人公の〈僕〉は鼠と呼ばれる男とバーのカウンターで会話をする。
※ネタバレ注意
主人公の〈僕〉は鼠と呼ばれる男とバーのカウンターで会話をする。
「金持ちなんて糞さ」と鼠。
鼠との出会いは〈僕〉が大学に入った頃。
ひどく酔っ払っていたせいか、どのような経緯で彼と出会ったかについては記憶がない。
二人が乗っていたフィアット600は公園の石柱にスピードを落とすことなくぶつかる。
奇跡的に怪我はなった。
「俺たちはついてる。チームを組もう。きっと何もかもうまくいくさ」
フィアットの屋根の上で鼠はそう言った。
「いいね、手始めに何をする?」
「ビールを飲もう」
こうして鼠との物語が始まった。
〈僕〉は大学の夏休みに故郷に帰省していた。
鼠とバーでビールを飲むことで物憂く日々は過ぎて行く。
ある日、僕は左手に指が4本しかない女の子と出会った。
行きつけのバーの洗面所で酔っ払って倒れていた彼女を介抱してあげたのだ。
「あなた・・・誰?」
彼女は眼を覚ますとそう言った。
ここは彼女の家のベットの中だ。
〈僕〉は眠ったまま起きない彼女を家まで送り届け、一晩中看病していたのだ。
「説明すると長くなる」
これまでのいきさつを説明する主人公。
「仕事に行かなくちゃ」と女。
<僕>は彼女を近くの港まで送り届けた。
帰り際、女は千円札をバックミラーにねじ込み、去って行った。
鼠と左手に指が4本しかない女との日々が物憂く、気だるげに過ぎて行く。
<僕>はバーでビールを飲み、町をドライブし、過ぎし日々を回想する。
やがて東京に帰らなければならない日がやってくる。
鼠、女と別れをつげ、僕の物語はほろ苦く終わりを告げる。
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
僕たちはそんな風にして生きている。
感想
おしゃれさを体現したかのような作品。
彼のこの軽妙でキャッチーなタッチは、神の細分によるものとしか言いようがないだろう。
しかし同時にそのキャッチ―な感じがこの作品の弱点でもあり、鼻に付く感じは否めない。
若者には広く受容されるだろうが、近代文学が好きな古風な人間には好かれないだろうと思った。
たとえば私の好きな西村賢太は村上春樹の作品を全く好まないだろうと思う。
純文学ではあるが、限りなくライトノベルに近いような印象を受ける。
全編が軽く、ふわふわしていて、捉えどころのない感じ。
主人公の<僕>の故郷の港町での様子が、淡々と、軽妙に描かれる。
大きな波も存在せず、文体も軽いので、読もうと思えば(退屈ではあるが)さらっと読める。
純文学特有の退屈さとライトノベル特有の軽さを併せ持った作品。