主に芥川賞受賞作のあらすじと感想を書いていくブログ(仮)

芥川賞受賞作や候補作のあらすじ(ネタバレあり)と感想を書いていくブログです。でも他の事を書くことがあるかもしれません。感想の部分は独断と偏見に満ちています。気分を悪くされる方がいらっしゃるかもしれませんので、お読みする際は十分ご注意ください。

2016年04月

あらすじ
※ネタバレ注意

主人公は香水やバスソープを扱う会社で広報兼営業として働く男。作中で明言されているわけではないが、おそらく20代。
彼は日比谷線の車内の中であることをやらかしてしまった。
何らかのトラブルで停車したままの車内、彼は車外の広告をぼーっと見ていた。
その広告は臓器提供の広告。
その広告にはこう書かれている。「死んでからも生き続けるものがあります。それはあなたの意思です」
それを見て主人公は後ろにいる先輩社員の近藤に話しかかる。
「あれ見てくださいよ、なんかぞっとしません?」
しかし主人公は忘れていた、近藤がすでに六本木駅で降りていたことを。
振り向いて話しかけてしまったのは、一人の見知らぬ女だった。
女はきょとんとした顔をしていた。
車内の乗客が一斉に主人公を見て、失笑が起ころうとした時、その女性が
「ほんとねえ、ぞっとする。ちょっと怖いっていうか、不気味な感じよね」
と主人公の問いに答える。
乗客は二人が知り合いなのだと認識し、各々の時間に戻った。

改札を抜け、地下通路を歩く主人公。
後ろを振り返ったが、すでに女の姿はなかった。
日比谷公園のベンチに腰掛け、コーヒーを舐める主人公。
彼はここから見る景色が好きだった。

ある日、いつものように日比谷公園で休憩していた時、あの女が現れた。
日比谷線の車内で話しかけてしまった女だ。
彼は彼女の下に走り寄る。
「こんにちは」
先に話しかけてきたのは女だった。
「こんにちは」遅れて返事をする主人公。
こうして男と女の交流が始まった。

彼と女は日比谷公園で会うたびに会話を交わした。
その間にも主人公の生活は続いていく。
地元から観光に来ている母親。
別居中の宇田川夫妻。
昔好きだった同級生が、子供を産んだこと。

ある日、女はある写真展に行きたいと行った。
公園で待ち合わせて、その写真展に行く二人。
そこに並べられていた写真は女が生まれた故郷の写真だった。
帰り際、女は「私、決めた」と晴れやかな声で告げ、地上への階段を駆け上がる。
主人公も後を追い、地上へ出る。
女の姿はすでに遠くにあり、主人公は女の姿を見届ける。
彼は、女につられ、自分までもが何かを決めた心境になっていた。

感想

都会に生きる20代社会人男性の心象を淡々と、そして爽やかに描いた作品。
ストーリーらしいストーリーが存在せず、あらすじを書くのに苦労した。
捉えどころのない作品で、これが純文学だと言ってしまえばそれまでなのだが、なんだが全体的にふわふわしていて、読んでいてよくわからない心境になった。
単なる事象や客観的な事実の積み重ねで、純文学のお手本と言われればその通りなのだが、主人公に親近感や共感を感じることができなかった。
感情移入と言うものができなかった。
なぜ感情移入ができなかったか、考えてみた。
それはは主人公に悩みがないからではないだろうか、と思った。
ほとんどの人が抱えるであろう悩みもしくは心の闇というものが描かれてないから、読んでいて退屈な印象を受けるのかもしれない。
人間の泥臭い所。怒りや悲しみ、悔しさや喜び。
人間が何を考え、何を思い、何を感じるか。
そういった人間としての根源の部分がこの作品にはない。
ただただ男性が見ている景色や生活が描かれ続ける。それだけだ。
しかしそれが同時にこの作品の爽やかさや清潔感のようなもを生み出しているのだとも思う。
長所が短所であり、短所が長所であるというあれだ。

小説を読む目的は様々であると思うが、私の場合は主人公に共感し、孤独を紛らわすためだ。
この主人公には距離を感じたし、じゃあ何か伝えたい重要なテーマがこの小説にあったかと言うと、私にはいまいちわからなかったし、そしてそれが描かれているかと言うと、そうとは思えなかった。
ただ都会に生きる青年の日常を描いた、それ以上でも以下でもないような気がした。
小説としてのうまさはピカイチではあるが、何か小説として大切なことが抜け落ちてしまっているような、そんな印象を受けた。

繰り返すが小説としての質はかなり高い。
特にラストシーンの描写は素晴らしい。
読み終わった後、泣きたくなるような、走り出したくなるような、そして同時に自分の無力さを思い知らされるような、素晴らしい読後感だった。
一瞬少し古臭いバブル期のドラマの印象を与えるが、そこに残るのはわざとらしくない爽快感だ。
この最後の描写を読むためだけでも、この作品は読む価値があるかもしれない。そう思わせるほど力のある描写だった
この作品はショートムービーとして撮影すれば、かなり面白いものになるのではないかと思った。

あらすじ
※ネタバレ注意

主人公の〈僕〉は鼠と呼ばれる男とバーのカウンターで会話をする。
「金持ちなんて糞さ」と鼠。
鼠との出会いは〈僕〉が大学に入った頃。
ひどく酔っ払っていたせいか、どのような経緯で彼と出会ったかについては記憶がない。
二人が乗っていたフィアット600は公園の石柱にスピードを落とすことなくぶつかる。
奇跡的に怪我はなった。
「俺たちはついてる。チームを組もう。きっと何もかもうまくいくさ」
フィアットの屋根の上で鼠はそう言った。
「いいね、手始めに何をする?」
「ビールを飲もう」
こうして鼠との物語が始まった。

〈僕〉は大学の夏休みに故郷に帰省していた。
鼠とバーでビールを飲むことで物憂く日々は過ぎて行く。
ある日、僕は左手に指が4本しかない女の子と出会った。
行きつけのバーの洗面所で酔っ払って倒れていた彼女を介抱してあげたのだ。
「あなた・・・誰?」
彼女は眼を覚ますとそう言った。
ここは彼女の家のベットの中だ。
〈僕〉は眠ったまま起きない彼女を家まで送り届け、一晩中看病していたのだ。
「説明すると長くなる」
これまでのいきさつを説明する主人公。
「仕事に行かなくちゃ」と女。
<僕>は彼女を近くの港まで送り届けた。
帰り際、女は千円札をバックミラーにねじ込み、去って行った。

鼠と左手に指が4本しかない女との日々が物憂く、気だるげに過ぎて行く。
<僕>はバーでビールを飲み、町をドライブし、過ぎし日々を回想する。
やがて東京に帰らなければならない日がやってくる。
鼠、女と別れをつげ、僕の物語はほろ苦く終わりを告げる。
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
僕たちはそんな風にして生きている。

感想

おしゃれさを体現したかのような作品。
彼のこの軽妙でキャッチーなタッチは、神の細分によるものとしか言いようがないだろう。
しかし同時にそのキャッチ―な感じがこの作品の弱点でもあり、鼻に付く感じは否めない。
若者には広く受容されるだろうが、近代文学が好きな古風な人間には好かれないだろうと思った。
たとえば私の好きな西村賢太は村上春樹の作品を全く好まないだろうと思う。

純文学ではあるが、限りなくライトノベルに近いような印象を受ける。
全編が軽く、ふわふわしていて、捉えどころのない感じ。
主人公の<僕>の故郷の港町での様子が、淡々と、軽妙に描かれる。
大きな波も存在せず、文体も軽いので、読もうと思えば(退屈ではあるが)さらっと読める。
純文学特有の退屈さとライトノベル特有の軽さを併せ持った作品。

あらすじ
※ネタバレ注意

主人公は及川。女性。
彼女は五反田に来ていた。
ある目的のためだ。
合鍵を使い、マンションの一室に侵入する。
そこで出会ったのは一人の幽霊。
彼の名は太っちゃん。
太っちゃんとは新卒で入って会社の同期だ。
ここから彼との出会いにさかのぼる。
及川が新卒で入った会社は住宅設備機器販売会社。
そこで同期で入ってきたのが太っちゃんだ。
太っちゃんは名は体をあらわすがごとく、恰幅の良い男性だった。
太っちゃんと及川はまず福岡に配属される。
同期入社の及川と太っちゃんは、同期同士ということで絆を深めて行く。
クレームに振り回されたときも、トラブルが発生した時も、いつも太っちゃんはそばにいた。
なれない土地ということもあり、不安が尽きなかったが、彼と死線を潜り抜けたり、福岡の町を練り歩いたりすることで、毎日は大変ながらも楽しいものになった。
恋愛対象ではないが、それでも彼といることは楽しく、絆は深まっていく。
やがて太っちゃんは先輩の井口と結婚し、子供にも恵まれる。
月日がたち、及川は埼玉への転勤を命じられる。
福岡を離れるのはさびしかった。
また何年後か、太っちゃんも東京への転勤が命じられた。
東京の地で二人は飲みに行くことになり、太っちゃんがある話題を持ちかける。
「お前、死んだあとパソコンのハードディスクどうする?」
パソコンのハードディスクには人に見られたくない情報がわんさか入っている。
彼はそれを心配したのだ。
そして二人はある約束を交わす。
もしどちらかが先に死んだら、生きている方が死んだ方のハードディスクを壊しにいくと。
そして二人はお互いの家の合鍵を交換し合う。

太っちゃんの死は突然だった。
ビルの屋上から身投げした人間に下敷きにされたのだ。
即死だった。
彼の死を聞いて、及川は涙を流す。
しかし彼女にはやることがあった。
及川は営業の途中、五反田に行き、単身赴任中だった太っちゃんのアパートに行く(妻の井口は脳溢血で倒れた母親の看病のため、福岡に滞在)。
彼からもらった星型ドライバーをつかい、パソコンを解体し、ハードディスクを取り出し、破壊する。
役目は果たした。
涙を落とす及川。
ハードディスクを壊したことで、彼が死んでしまったことを再認識した。

後日、先輩の副島と共に、妻である井口のもとを訪ねる及川。
そこで井口に遺品である太っちゃんが使っていたノートを見せられる。
そこには彼のポエムが書かれていた。
「俺は沖で待つ
小さな船でおまえがやって来るのを
俺は大船だ
なにもこわくないぞ」
「沖で待つ」という表現が妙に心に残った及川。

埼玉に戻っても彼女の生活は変わらなかった。
また彼女に転勤の辞令が出る。
しかし及川はショックを受けたり、メランコリックになったりすることはなかった。

ラストは幽霊となった太っちゃんとの会話に引き戻される。
幽霊となった太っちゃんはなぜか及川のハードディスクの内容を知っていた。
「お前、観察日記なんかやめた方がいいぜ」
及川は向かいのマンションの住人の部屋を覗くことを習慣にしていて、その様子を日記にしたためていた。
「盗聴器はさすがにまずいよお前」
太っちゃんは何でも知っていた。
太っちゃんのことが懐かしくてたまらなくなる及川。
「同期って不思議だよね、いつ会っても楽しいじゃん」と及川。
「俺もだよ」
「覚えてる?初めて福岡に行った時のこと」
「おう、覚えてるよ」
それ以上会話は必要なかった。
彼らの中にはあの日の福岡の景色が浮かんでくる。
あの日感じた不安感が彼らの原点で、それは他の誰にも理解されなくてもいいのだ。
ただ私と太っちゃんだけが持っていればいい思い出。
「太っちゃん、死んでからまた太ったんじゃない?」
そう言うと太っちゃんは笑った。

感想

ですます調の文体。
新卒で住宅設備機器メーカーに入った女性と同期の太っちゃんと呼ばれる男性との友情が描かれる。
随所に住宅設備機器の用語が散りばめられる。
恋愛を介しない男女の交流が描かれ、彼との関係が主題に置かれながらも、新入社員の奮闘が描かれる。
特に感情移入はできなかったが、小説としては良くできてるし、長くもないのでさらっと読める。
さらっと読めるが故に、あまり心に残らないとも言えるかもしれない。
小説としての出来はいいが、おもしろさとしては「可もなく不可もなく」、という印象を受けた。

芥川賞受賞作や候補作のあらすじ(ネタバレあり)と感想を書いていくブログです。
ただし他の事を書くことがあるかもしれません。
感想の部分は独断と偏見に満ちています。
気分を悪くされる方がいらっしゃるかもしれませんので、お読みする際は十分ご注意ください。

プロフィール
名前:あきがみ
年齢:25
性別:男
現住地:東京

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